SNSを開けば、どこもかしこもティール&オレンジだ。
シャドウを青緑に、ハイライトをオレンジに振ったあの映画的なルックは、確かに肌を綺麗に見せるし、目を引く。
だが、猫も杓子も同じ色調では、誰が撮った写真なのか判別がつかない。
それはもはや表現ではなく、ただのフィルター遊びだ。
僕たちクリエイターが目指すべきは、流行りのプリセットを当てて満足することではない。
その写真が持つ本来の空気感を、自分だけの色彩で翻訳することだ。
今回は、ワンクリックの魔法から卒業し、トーンカーブとキャリブレーションを駆使して、オリジナルの世界観を構築するための基礎を話そう。
キャリブレーションパネルという隠された魔術
Lightroomの一番下にあるキャリブレーションパネル。
多くの人がスルーしているか、何のためにあるのか理解していないこの項目こそが、独自の色味を作るための秘密のスパイスだ。
通常のHSLパネルが特定の色域だけを調整するのに対し、キャリブレーションは画像の色の定義そのものを根底から変えてしまう。
例えば、ブルー主成分の色相をマイナス側に振ってみてほしい。
画面全体の青が少しティール寄りになり、緑が深くなり、肌色が鮮やかになるはずだ。
これが、あのフィルムライクな発色の正体であることが多い。
赤、緑、青の3つのプライマリのバランスを崩すことで、デジタル特有の優等生すぎる発色を壊し、どこか懐かしく、情緒的なベースカラーを作ることができる。
トーンカーブを触る前に、まずここで世界の色を決める。
これが自分だけのシグネチャールックを作る第一歩だ。
シャドウに補色を忍ばせる本当の意味
色作りの核心は、シャドウとハイライトの対比にある。
ティール&オレンジが流行った理由は、青とオレンジが補色の関係にあり、互いを引き立て合うからだ。
だが、正解はこの組み合わせだけではない。
トーンカーブのRGBチャンネルを個別に操作することで、もっと多様な感情を表現できる。
例えば、ブルーチャンネルのシャドウを持ち上げ、ハイライトを下げると、冷たくも温かいノスタルジックな空気が出る。
あるいは、グリーンチャンネルを操作して、シャドウにマゼンタを、ハイライトにグリーンを乗せれば、映画『マトリックス』のような退廃的で都会的なルックになる。
重要なのは、単に色を被せることではない。
光と影に異なる色温度を持たせることで、平面的な写真に奥行きと物語を与えることだ。
シャドウにどんな色を落とすかで、その写真の温度が決まる。
安易な青緑に逃げず、その写真が求めている色を探す実験を繰り返そう。
プリセットはゴールではなく出発点だ
有料や無料のプリセットをダウンロードして使うことを否定はしない。
だが、それを当てて完成とするのは思考停止だ。
プリセットは、あくまで他人が他人の写真に合わせて作ったレシピに過ぎない。
撮影時の光線状態も、機材も違うあなたの写真に、そのままハマるはずがないのだ。
プリセットは出発点として使い、必ずパラメーターを確認する。
なぜトーンカーブがS字になっているのかなぜオレンジの彩度が下がっているのか。
その作者の意図を解読し、そこから自分の写真に合わせて微調整を行う。
最終的には、自分の目で見て、スライダーを1単位ずつ動かしながら心地よいと感じるポイントを探るしかない。
面倒かもしれないが、この泥臭いプロセスを経て生まれた色だけが、あなたの作家性となる。
流行り廃りの激しいSNSの波に飲まれず、10年後見返しても美しいと思える自分の色を見つけてほしい。
脱・ティール&オレンジ。
そこからが本当の現像の始まりだ。
