写真を上達させるには、毎日撮ることだ。
耳にタコができるほど聞かされた言葉だろう。
だが、仕事で疲れた日に重いカメラを持つ気力はない。
そうして空白の1日が生まれると、糸がプツリと切れてしまう。
継続に必要なのは、根性ではなく捉え方の変換だ。
これは作品作りではなく、視覚のストレッチだと割り切ることから始めよう。
物理的な摩擦係数をゼロにする機材選び
1日1枚を阻害する最大の要因は、実はメンタルではなくフィジカルにあることが多い。
つまり、機材が重い、大きい、取り出しにくいといった物理的なストレスだ。
どれだけ高画素で描写性能の高いフルサイズ機を持っていても、カバンに入っていなければ写真は撮れない。
今日はいい光があるなと思ったその瞬間に、0.5秒で構えられる機材が手元にあるか。
これが全てだ。
僕の場合、デイリースナップには徹底してコンパクトな機材を選ぶ。
ハイエンドなコンデジ、あるいはあえてオールドレンズをつけた小型ミラーレス。
時にはスマートフォンだって立派な機材だ。
重要なのは、持ち出すことに躊躇しないサイズ感と、起動の速さ。
もし、あなたが「今日はカメラが重いから置いていこう」と週に3回以上思うなら、それは機材選びが間違っている証拠。
機材は、あなたのフットワークを重くする鎖であってはならないのだ。
最高の画質よりも、最高の手軽さを優先させること。
これが継続への第一歩となる。
半径5メートルの劇的ではない瞬間を切り取る
何を撮ればいいかわからないという悩みもよく聞く。
これもまた、映える場所や決定的瞬間を探そうとするから陥る罠だ。
僕が毎日のスナップで狙うのは、劇的な瞬間ではなく、日常の隙間に落ちている光と影だ。
例えば、
通勤途中のアスファルトに落ちる街路樹の影。
オフィスのブラインド越しに差し込む夕日。
飲み干したコーヒーカップの底に残る泡の模様。
意識しなければノイズとして処理されてしまう景色だ。
しかし、ファインダーを通すことで、それらは形や質感として再構築される。
遠くへ行く必要はない。
半径5メートル以内の景色を、露出を切り詰めて撮ってみる。
あるいは、あえてピントを外して色だけを捉えてみる。
そうやって視点で遊ぶことができれば、被写体が枯渇することはあり得ない。
世界はいつだって、光で満ちているのだから。
重要なのは何が写っているかという情報ではなく、どう見えているかという視点だ。
ありふれた日常を、自分だけのフレームで切り取る行為こそが、クリエイターとしての感性を研ぎ澄ませていく。
撮った直後にプレビュー画面を見ない勇気
最後に、気軽に続けるための逆説的なテクニックを紹介しよう。
それは撮った写真をすぐに見返さないことだ。
デジタル時代、僕たちは撮った直後に背面液晶を確認し、ピントが甘い構図が微妙だとジャッジすることに慣れすぎている。
だが、日々のスナップにおいて、その即時的なフィードバックは時に毒になる。
うまく撮れなかったという小さな敗北感が積み重なると、シャッターを切るのが怖くなるからだ。
僕は、デイリースナップに関しては、撮ったその場では確認しないことも多い。
数日後、あるいは数週間後にSDカードを読み込んだとき、あ、こんな光を撮っていたんだと他人事のように再会する。
それくらいの距離感がちょうどいい。
撮影と編集(セレクト)を切り離すこと。
撮る時は、ただ撮るという快楽だけに身を委ねる。
このリズムが掴めれば、1日1枚は苦行ではなく、日々の生活に彩りを添える豊かな習慣に変わるはずだ。
評価を下すのは未来の自分でいい。
撮った画像を確認せず、ただ呼吸をするようにシャッターを切る。
その積み重ねが、やがてあなただけの確固たるスタイルを作っていくはずだ。
